このページは、タミヤT55Aの塗装のステップ・バイ・ステップです。
私が実際に行った塗装手順を順番に説明しています。
説明の至らないところも多いかと思います。不明な点がありましたら、お気軽に掲示板などを通じてご質問ください。

STEP2

ウオッシング
私のウォッシング色 - ローアンバー

続いて細部のディティール(この場合はモールドまたは彫刻と同義)を強調するため、ウォッシングを行います。またウォッシングはフィルターがどぎつくなりすぎた箇所のトーンを抑える効果もあります。

ウォッシングに使用するのは、私の最暗部色・油絵の具のローアンバーです。ちなみに私が愛用しているローアンバーは、日本で最も手に入りやすいホルベイン製です。

最暗部色は暗ければ暗いほど、色のグラデーションの幅が広がって好ましい結果になるのですが、いろいろ他社と比較した結果、このホルベインのローアンバーがもっとも暗く、最も茶の色味が強く且つ自然で、私の好みと合いました。

油絵の具のローアンバーは、暗い色の縁取りをディティール周りに作るのみならず、シンナーとの調合次第では、後のアグアリングと同じように、暗い縁取りから明るいホコリ汚れへの微妙な変化を表現することもできます。
ウォッシングは、結局最後には殆んど全体に施すことになるのですが、始めはまず頂面に比べて影になる足回りや、ディティールが多いエンジンデッキ周りから始めます。

シンナーは油絵の具が溶ければ何でも構いませんが、一応私は臭いと刺激が少なく、スチロール樹脂にやさしいタミヤ・エナメルの溶剤をお勧めしておきます。

一方ペトロールはこの用途に最適の溶剤で、その優れた浸透性は他の追従を許しません。また乾いた後に残るシミももごく僅かで、何から何まで最高なのですが、価格が高いのが欠点です(かなり安いところで買っているつもりなんですが、それでもタミヤの徳用溶剤の2倍の価格です)。

逆に、刺激臭とスチロールへの浸食性からお勧めできないのがテレピンです。海外モデラーが「テレピン油を使用して」と述べている場合の多くが、日本で言うところの「ペトロール」だったりします。ちなみにヨーロッパでペトロールというとガソリンのことを指します。
ローアンバーを薄める割合はまちまちで、正確に測ったことはありませんが、スミ入れする場合の薄め方は、毛細管現象の助けですんなりディティールに染み込むほどに薄く、且つしっかり色が残る程度に濃いのが丁度良いということになります。

足回りやエンジンデッキ周辺は、特に念入りに行います。

さらにかなり薄めたローアンバーで広く面をカバーした後、ティッシュや綿棒で拭き取り、全体のトーンを整えます。
この過程でフィルターのどぎついところは抑えられて、むしろ薄すぎるフィルターはローアンバーのレイヤーの下に消えてしまうことに気付くと思います。

フィルターを終えた際にやりすぎではと不安だった方は、それが杞憂だったことに安心されるでしょう。またフィルターを控えめにしすぎた方は、ウォッシュも控えめにすれば、そのかすかな彩度を保つことができます。

いずれにせよ、このフィルターとウォッシュのバランスは、経験によって結果を予測できるようになってきますから、失敗を恐れずどんどん試してみてください。
ウォッシング終了の状態

この状態は、このモデルへの光と影の演出の完成状態です。

つまり、基本塗装の明るい部分を大切に残しながら、暗い部分をさらに暗くしていき、光と影のトーンの幅を広げた結果が、この状態になります。この自然光よりも強調されたトーンが、このモデルを1/1のプラモデルではなく1/35の鋼鉄の戦闘車輌に見せるのです。
塗料皿にローアンバー色の薄め液が残っている状態で、さらに明るい錆の色を表すカドミウム・オレンジと、赤茶けたサビ色のバーントアンバーを少量出します(ローアンバーも使います)。それで熱で焼けたエギゾースト周辺や、生の鉄が空気にむき出しでサビている場所(特にキャタピラトラックやワイヤーロープ周辺)にウォッシュを行います。

この段階で全体のバランスが見たくて、トラックをはめてみました。グリーンの車体と茶色のトラックが、よいコントラストを見せてくれています(写真が暗くてすみません)。
左の写真は、チップも少し施してありますが、焼けた排気管周辺やロープ取付部に、赤茶色やオレンジのウォッシュが入っているのが、お分りいただけると思います。

チッピング

「1/35戦車としての基本塗装」を完了したら、戦車に個性を与えていく作業です。
今回はプレーンに箱絵のイメージを目指すので、汚しは控えめに…を心がけていきます。しかしながら・・・。

これは私の私見なのですが、出来の良し悪しは別にして、完成後の作品の満足度は「ちょっとやりすぎかな」と感じるくらいで丁度よいように思います。製作中は作品に没頭していて、自分の描き込んだ全てのディティールがよく見えていますから、これで充分と思いがちになります。
またある程度作品が完成に近づくと、新しい挑戦をしてこれまでの努力を壊すのが怖くなり、いきおい安全策をとって筆を止めようとする誘惑が働きます。このような作品は後で見ると、どことなく物足りなくて退屈なものです。

これまでの作品レベルを超える、より良い作品を完成させるためには、安易な妥協を捨て、冒険を続けなければなりません。バランスの見極めに慎重であっても、新しい挑戦に躊躇してはなりません。自分の思いつく全てをつぎ込んだ作品は、例え大きな失敗があっても、人の目を引きつける何ものかがあります。

プラモデルはあなたが自由に塗ってかまわないのです。あなたが誰の指図も受けず、自分の思いのままに製作を決定できるのです。この自由な模型の世界で、どうぞ思う存分に自分の才能を発揮してください。

チッピングの道具

先ほどから使用している塗料皿に、錆のウォッシュと同じ色をチューブから追加します。

今回のチップで使用した色
 カドミウムオレンジ- 明るい錆
               流れて染みのように広がった錆
 バーントアンバー - 酸化して固まった鉄(錆本体)
 ローアンバー    - 黒っぽくなった錆、汚れ

例によってシンナーは、タミヤエナメルを使用しています。
金銭的に余裕のある方は、ペトロールの素晴らしい使い心地を楽しんでください(結果はそれほど差がないので、貧乏な私たちがひがむ必要はありません)。


どこにチップを?

チッピングはどこに施すべきで、どこに施してはならないのでしょうか?
答えは全て実車の中にあります。イラク、アフガン、中東、どこでもいいですから、ボロボロに使い込まれたり破壊された戦車の写真をよ〜く観察します。またこの写真はカラー写真であるべきです。

また初期のアーマーモデリング誌に連載された高石誠氏の「戦車模型超級技術指南」は、リアルなウェザリングのための美術的なアプローチを含んだ素晴らしい実践記事です。この記事を原文で読める私たち日本人モデラーは幸せで、海外モデラーのこの記事への羨望混じりの関心の高さには何度も驚かされました。

実車写真を見て気付かれるのは、チップの数は「期待したほど」多くないことです。実際の戦車はぱっと見るとボロボロのヨレヨレでも、よく見るとチップの数はそれほどでもないのです。実車がこうでは仕方ない、僕の戦車のチップもこの程度にすべきでしょうか・・・?

ここでリアルとは何かかのジレンマにつき当たります。
確かに実際の戦車のチップの数は、モデルに描きこめる程度に大きいものはそれほど多くありません。

しかしモデルは小さいので、実際の戦車と同じような鉄の重量感を持たせようと思うと、見る人が小さいモデルから大きな実車の重量感を感じてもらえるよう、鉄としての情報の増幅が必要なのです。

その情報の増幅の手段が、鈍いツヤを保った半光沢の塗装であり、錆色のウォッシングであり、チッピングです。これらは全て相乗効果で鑑賞者に増幅された鉄のイメージを与え、鑑賞者はちっぽけな戦車モデルから50トンもある実物のリアリティを感じ取るのです。

従って、鑑賞者に1/35の戦車モデルから、実車と同様或いはそれ以上の鉄の質感や重量感を感じてもらうには、それに足りるほど鉄の情報を増幅しなければならないのです。そしてここがモデラーの腕の見せ所になるのです。


私のチッピング
私の行ったチッピングについてご説明申し上げます。
実車写真で特に参考にしたのは、ソミュールとボービントン戦車博物館に展示されているイラク軍のT55です。これらは捕獲されてから再塗装されていないため、実際の戦車のダメージの状態を知るたいへん良いサンプルです。

両博物館で合計3台のT55が展示されているのですが、今回の私のT55Aでは、これら3台全てのチップを参考に描きこんでいます。言わば3台分のチップを1台に描きこんだわけです。本人は思う存分にやって、たいへん満足しているのですが、箱絵のイメージからは…。

デリケートなチッピングでは、筆は良いものを使うに越したことはありません。特にエッジがダルになってしまうと、至近からの鑑賞には耐えられなくなります。シャープさを保つためにも、良い筆を使うことはたいへん重要です。
しかし、場所によっては磨り減って先が纏まらなくなった面相筆もまた使えます。

油絵の具は薄めずに使用するとツヤが出るので、モデルに塗る場合は必ず薄めて使用しますが、チップを描く場合はかなり濃い状態で使用することになります。この際、同系色のピグメントを少しだけ加えると、強力なつや消し効果を生みます。

チッピングは筆を進めるほどに、プラスチックが鉄の実感を見せていく楽しい作業です。どれくらいチップを施すかは、どのような状態の戦車を作りたいかによって異なります。

今回は戦闘などの激しい使用をされた車輌ではなく、演習などでほどほどに使い込まれた車輌です。やりすぎは求めるものから離れていきますから要注意。

また私はチッピングは必ず2日以上作業することにしています。少なめのチッピングでもそれなりに手間がかかるので、どちみち1日ですませることは難しいですが、何よりインターバルをあけて作品を眺める時間を設けないと、密度やメリハリのバランスが見えてこないのです。
一晩、せっせと写真を見ながらチップを施しても、翌朝には何かしら不満が出てきます。そこでまた全体を眺めながら、細部のチッピングを修正していくわけです。

この作品の場合は、概ね2晩かけてチップを行いました。また次の行程の終了後にも更に修正を加えています。






アグアリング
アグアリング(Agua-r-ing)は、私の作った造語で辞書を見ても出てきません。アグア(Agua)とはスペイン語で「水」を意味し、ラテン語だとアクア(Aqua)になります。要するに水を溶剤に使って施すウェザリング・テクニックです。スペイン語語源ということで察しもついているかと思いますが、これはミゲルがピグメントを用いて良く使うテクニックです。しかし、私のアグアリングの原点はミゲルにあるのではありません。

ずいぶん前の話ですが、毎年、名古屋で行われている模型コンベンション「中京AFVの会」で、極めて興味深い作品に出会いました。それは湾岸戦争時のシェリダン戦車の情景作品で、作者は渡辺太至さんという方でした(いつも年賀状有難うございます)。

渡辺さんのシェリダンは、米本土からOD色のまま急派されてきて、現地クウェートでそこの砂を溶剤で練って車体に塗りつけた迷彩を、実に見事に再現してあったのです。しかし、私には作者がどのようなテクニックを用いて、この見事な塗装を仕上げたのか見当もつきませんでした。

そこで直接、渡辺さんにおうかがいすると、それは塗料ではなく、材木の目どめに使用する『トノ粉』を溶いて塗りつけたとのこと、しかもそれを溶いたのは塗料用シンナーではなく、水道からの「水」だったのです。何でも模型用でなければならないと思っていた私は、渡辺さんの自由な発想に目からウロコが落ちました。

それ以後、このテクニックは私の作品にはなくてはならないものになり、現在では純粋顔料であるピグメントの登場で、このテクニックのバラエティも大幅に広がりました。

アグアリングの道具
基本的にピグメントと水です。あと拭き取るための綿棒やティシューも用意してください。

今回使用したピグメントは、
   ヨーロッパダスト
   ビーチサンド

以上です。
ただビーチサンドは水で溶いて乾くと、余りにも白くなりすぎるようなので、変化をつけたいところだけに限って極少量の使用にとどめました。
アグアリングの方法は、極少量のピグメントを水で溶いて戦車のホコリをかぶりそうなところ-特に頂部-に薄く塗ります。スミ入れのように毛細管現象を利用して塗るのではなく、極薄いピグメント水で頂部をカバーして、それを綿棒やティシューで拭き取っていくのです。

純粋顔料であるピグメントの着色力は強力です。くれぐれも少量づつ調子を見ながら行ってください。ピグメントが多すぎると、その部分がピグメントの色で染まってしまいます。

車体の頂部に塗るのは、この部分がホコリをかぶりやすいという理由だけではありません。この部分に明るいホコリ色のレイヤーをかぶせることによって、垂直な側面との面構成の違いを強調するねらいもあります。
明るい基本色よりも更に明るいピグメントのレイヤーを頂部だけにかぶせて、暗から明へのトーンの幅を更に広げ、小さいモデルの立体感をさらに強調するのです。
アグアリングは全ての場所に施すのではありません。頂部だけアグアリングを施せば、見る人には戦車全体のホコリっぽさをイメージしてもらえます。

全体にアグアリングを施さないで下さい。ただの汚いプラモの戦車になってしまいます。砂場で汚れたプラモデルは、「ただの汚い1/1のオモチャの戦車」であって、「自然の中で汚れた戦車の1/35の模型」ではないのです。

トラックをはめて完成!

今回は(というか、いつもですが)、リンク・バイ・リンクのトラックを使用せず、キット付属のベルト式を使用しています。

キットのもので充分にリアル・・・なんて言ってしまうと皆さんからのブーイングを受けそうですが、これもそれなりにリアルに見せる方法はあります。

私が今回用いたのは、大昔のタミヤ・ジュニアニュースに紹介されていた糸を使った方法です。

まず塗装したトラックの、後ろから4個分の転輪の上のあたりに、縫い針で糸を通します。糸は黒とか茶色とかの目立たない色のものを使用します。

糸を通す場所はトラックリンクのセンターガイドの前後で、糸はリンク1個分をまわします。
その糸をピンセットで転輪にくくりつけます。くくりつけるのは一つの転輪を構成する、手前と奥の車輪の間部分です。しっかりと奥に隠れるように結んでください。
また出来るだけ転輪に密着するよう、きつく結びますが、トラックが逆への字に曲がらないよう、手加減してください(でもしっかりと!!)。
できあがり!
どっから見ても、ずっしり重い鉄製のキャタピラ・トラックそのものですよねっ!!

フィギュアの塗装

T55Aには、オーソドックスなポーズの人形が1体付属しています。
各部分を塗装図に従い塗装します。

肌色部分はヴァレホ・モデルカラーを使用しています。
 845サニースキントーンをベースに、暗部色に846マホガニーと984フラットブラウン、更に暗い部分は941バーントアンバーを使用。
頬と口の赤みは910オレンジレッドと946ダークレッドです。
最後に明るい部分に928ライトフレッシュをタッチして出来上がり。

言い訳じみて恐縮なんですが、肉体労働者の私ゃ人形塗りはホントに苦手なんですね。
あんまりお見せできるような出来ではないんですが、一応、ご参考までにと言うことで。
ヴァレホのなめらかさにひたすら感謝。
服はアクリルのフラットブラックにちょっとだけグレーを混ぜて明度を上げたものを下塗りして、油彩の黒(アイボリーブラック)でスミ入れしただけです。作業頭巾も布製ですので同様の塗装です。

しかし、残念ながらツヤが出てしまいガックリ。左の写真はまだ乾いていない状態なので、これほどヒドくはありませんが、まるで皮のスーツのような半光沢になってしまったので、ヴァレホのマットバーニッシュで抑えます。ヴァレホのマットバーニッシュは、たいへん優れたつや消しバーニッシュでたとえ原液を塗ったとしても白くなりません(さすがに原液だとちょっとモッタリしますが)。こんなことなら最初からヴァレホを使っておけばよかった…。

皮のブーツはそのままですが、脂ぎった私のお手てで撫で撫でして、さらにツヤを出します。

T55A完成!

以上で、完成です。

組立てから完成までにかかった日数は5日間でした。
やはり素組みだと、完成が早いですね。

それにしてもこの戦車はカッコいいですね。これまでT55というと、ザコのヤラレ役というイメージだったのですが、こうやってカタチになったモデルを見ると、なかなかどうして風格があります。

既にたくさんの方が、このT55を製作されていることと思います。長いこと待ったアイテムだけに作りたいバージョンもたくさんあり、当分このキットで楽しめそうです。このような良いキットの発売をきっかけに、さらにミリタリーモデルが活性化するといいですね。

長文、お読みいただき有難うございました。




完成したT55Aの画像はこちらです


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